今回はブルーインパルスが航空祭などでデモンストレーションフライト(展示飛行)を実施する際にどんな技が繰り出されるのかについて解説していきます。
ブルーインパルスが展示飛行を行う際は、飛行前の打ち合わせにて事前にきめられた順番に基づいて実施されています。

つまり事前に一連の飛行技についてわかっていると「次は○○だね」と、先読みをすることができ、撮影の一助となったり、その高度な段取りの世界をふくめて展示飛行をより深く楽しむことができるのです
今回は、そんなブルーインパルスの展示飛行の世界について解説していきます。
アクロバット飛行?展示飛行?
ブルーインパルスが航空祭などで派手なデモンストレーション飛行を行う際は展示飛行とかアクロバット飛行とかいろんな表現がされることがあります。
航空法にもとづくと、ブルーインパルスが一般に天気の良い航空祭で実施するのは曲技飛行と定義されています。
曲技飛行とは宙返り(ループ)、横転(ロール)といった飛行や姿勢の急激な変化、異常な姿勢、速度の異常な変化を伴う飛行を行います。
【曲技飛行】=【アクロバット飛行】という意味で使用されることが多いです。



なおブルーインパルスが繰り出す飛行技は『課目(かもく)』と呼ばれ、様々な課目が航空祭やそのほかのイベントなどで披露されます
ときに激しい機動が伴い、安全を考慮して航空自衛隊の飛行場以外で実施されることは原則としてありません
→垂直の♡マークである『バーティカルキューピッド』や垂直上昇の伴う課目は航空祭以外では見ることができません
展示飛行は航空祭以外の市街地でのイベント飛行などでも実施されますが、航空自衛隊の基地上空以外での展示飛行は『編隊連携機動飛行』『航過飛行』のいずれかが実施されます
天候によってかわる!飛行区分とは?
ブルーインパルスの展示飛行の内容はその時の天気の状態によって変わります。
もう少し詳しく言うと、主にシーリング(雲底高度)と視程(目視できる距離)の状況によってフライトの内容が決定されます。
ブルーインパルスではこの天気の状況を「区分(くぶん)」と呼んで分類分けしています
区分は5つに分かれており、それぞれの区分で飛行可能な演目が異なります。



ブルーインパルスが飛行を行う際は基本的には雲の中の飛行ができないという規則を前提に区分が決定されるということを知っておくとわかりやすいかと思います
| 区分 | 雲の最低高度 | 視程 | メモ |
|---|---|---|---|
| 第1区分 | 10000フィート(約3000m)以上 | 8km以上 | 最も派手な課目が堪能できる |
| 第2区分 | 7000フィート(約2100m)以上 | 8km以上 | 1区分よりやや限定された課目に |
| 第3区分 | 5000フィート(約1500m)以上 | 5km以上 | 水平系の課目を中心に実施 |
| 第4区分 | 3000フィート(約900m)以上 | 5km以上 | 3区分よりさらに限定的に |
※第5区分(編隊連携機動飛行)については後述します



航空祭などで展示飛行を行う場合、5番機が「ローアングル・キューバン・テイクオフ」を実施後、会場周辺の天候チェックを行い1番機にレポート。それをうけて1番機が飛行区分を判断&決定して、無線でほかの機体に伝達する形がとられます。
なお会場のアナウンスでは「本日の飛行は〇〇区分で実施されます」などの発表はありません



5番機が単独で左から進入してくる課目である⑦インバーテッド&コンティニュアス・ロールの次の課目内容で実施する区分が判明する(察する事ができる)という、ちょっとマニアックな楽しみ方となります
第1区分および第2区分の課目
それではいよいよ、ここから区分ごとに内容の異なる課目について見ていくことにしましょう。



課目名のリンクをクリックすると動画を見ることができます(お外で鑑賞される際はパケ代や音量に注意して下さい)
| 順番 | 第1・2区分(垂直系演技あり) 課目名 | 飛行する機番 | 進入方向など |
|---|---|---|---|
| 1 | インディビジュアル・テイクオフ・ダーティーターン | 1~4(番機) | 滑走路 |
| 2 | ローアングル・ キューバン・テイクオフ | 5 | 滑走路 |
| 3 | ロールオン テイクオフ | 6 | 滑走路 |
| 4 | ファン・ブレイク | 1~4 | 左後ろ |
| 5 | 4ポイント・ロール / インバーテッド4ポイント・ロール | 5 | 左 |
| 6 | チェンジ・オーバー・ターン | 1~4&6(5機) | 右 |
| 7 | インバーテッド&コンティニュアス・ロール | 5 | 左 |
| 8 | サンライズ(宙返りあり) / レイン・フォール | 1~4&6 | 正面 |
| 9 | バーティカル・クライム・ロール | 5 | 左 |
| 10 | スロー・ロール | 6 | 左 |
| 11 | チェンジ・オーバー・ループ | 1~4 | 後ろ |
| 12 | ハーフ・スロー・ロール / ダブル・ナイフ・エッジ / カリプソ / バック・トゥ・パック | 5&6 | 右 |
| 13 | レター8(エイト) | 1~4 | 後ろ |
| 14 | オポジット・コンティニュアス・ロール | 5&6 | 左右 |
| 15 | 4シップ・インバート / ダブル・ファーベル | 1~4 | 右 |
| 16 | キューピッド♡(垂直のハートに矢が刺さる) | 4&5&6 | 正面 |
| 17 | ライン・アブレスト・ロール | 1~3 | 正面右 |
| 18 | スリーシックスティ(360)&ループ | 5 | 左 |
| 19 | ワイド・トゥ・デルタ・ループ | 1~4&6 | 後ろ |
| 20 | デルタ・ロール (1区分)/ フェニックス・ロール(2区分) | 全機 | 正面右 |
| 21 | デルタ・ループ&ボントン・ロール(1区分) / デルタ・ループ(1区分) / フェニックス・ループ(2区分) | 全機 | 右 |
| 22 | ボントン・ロール | 全機 | 左 |
| 23 | バーティカル・キューバン8(1区分) キューバン8(2区分) | 5 | 右 |
| 24 | スタークロス☆ | 1~4&6 | 正面 |
| 25 | タッククロス(Ⅰ) | 5&6 | 正面 |
| 26 | ローリング・コンバット・ピッチ | 1~4 | 左 |
| 27 | コーク・スクリュー | 5&6 | 正面 |
| その後、基本は着陸となるが クリスマスツリーなどの特別演目が実施される場合あり |
※表中のスラッシュ「/」で区切られた課目は、どれか一つが実施される「または」の意味です
※筆者のリサーチ内容をもとにまとめたものであり、一部実際と異なる場合があります
1区分の場合23番めの課目がバーティカル・キューバン8(垂直の8の字)
2区分の場合キューバン8(横に倒れた8の字)となります
第3区分および第4区分の課目



雲高の関係で1・2区分が実施できない場合でも、3・4区分でしか実施されないレア課目!?が楽しめますので、見逃せません。
| 順番 | 第3・4区分(垂直系演技なし) 課目名 | 飛行する機番 | 進入方向など |
|---|---|---|---|
| 1 | インディビジュアル・テイクオフ・ダーティーターン | 1~4(番機) | 滑走路 |
| 2 | ローアングル・ キューバン・テイクオフ | 5 | 滑走路 |
| 3 | ロールオン テイクオフ | 6 | 滑走路 |
| 4 | ファン・ブレイク | 1~4 | 左後ろ |
| 5 | 4ポイント・ロール / インバーテッド4ポイント・ロール | 5 | 左 |
| 6 | チェンジ・オーバー・ターン | 1~4&6(5機) | 右 |
| 7 | インバーテッド&コンティニュアス・ロール | 5 | 左 |
| 8 | レベル・サンライズ(3区分) / レベル・オープナー(4区分) | 1~4&6 | 正面 |
| 9 | インバーテッド・ロール | 5 | 左 |
| 10 | スロー・ロール | 6 | 左 |
| 11 | レター8(エイト) | 1~4 | 後ろ |
| 12 | ハーフ・スロー・ロール / ダブル・ナイフ・エッジ / カリプソ / バック・トゥ・パック | 5&6 | 右 |
| 13 | トレール・トゥ・ダイヤモンド・ロール / ロール・バック・トゥ・アローヘッド | 1~4 | 左 |
| 14 | オポジット・コンティニュアス・ロール | 5&6 | 左右 |
| 15 | 4シップ・インバート / ダブル・ファーベル | 1~4 | 右 |
| 16 | スラント(斜め)・キューピッド♡(3区分) レベル(水平)・キューピッド♡(4区分) | 5&6 | 正面 |
| 17 | シングル・クローバーリーフ・ターン / ロール・バック・トゥ・アローヘッド | 1~3 | 正面右 |
| 18 | オポジット・トライアングル / デルタ360° | 全機 | 左 |
| 19 | ダブル・ロール・バック | 全機 | 右 |
| 20 | ボントン・ロール | 全機 | 左 |
| 21 | サクラ | 5 | 右 |
| 22 | タッククロス(Ⅰ)3区分 タッククロス(Ⅱ)4区分 | 5&6 | 正面 |
| 23 | ローリング・コンバット・ピッチ | 1~4 | 左 |
| 24 | コーク・スクリュー | 5&6 | 正面 |
| その後、基本は着陸となるが クリスマスツリーなどの特別演目が実施される場合あり |
※表中のスラッシュ「/」で区切られた課目は、どれか一つが実施される「または」の意味です
※赤文字は1・2区分では実施のない課目です
※筆者のリサーチ内容をもとにまとめたものであり、一部実際と異なる場合があります
3区分の場合22番めの課目がタックロスⅠ(5番機と6番機が交差した後で急角度で上昇)
4区分の場合タッククロスⅡとなります(5番機と6番機が交差した後で緩い角度で上昇)
会場後方から進入してくる演目は?



前にむかってカメラを構えていたのに、突然後ろからブルーインパルスが進入してきて不意をうたれた!なんてこともありますよね。
そこで会場後方から進入する課目について上記の表をもとに抽出すると以下の通りです
【全区分共通】
- ファン・ブレイク
→会場左後方より進入、6番機によるロールオンテイクオフの次に実施 - チェンジ・オーバー・ループ
→6番機によるスローロールの次に実施 - レター8
→【1・2区分の場合】5&6番機によるハーフスローロールまたはダブルナイフエッジの次に実施
→【3・4区分の場合】6番機によるスローロールの次に実施
【第1・2区分のみ実施】
- ワイド・トゥ・デルタ・ループ
→5番機によるスリーシックスティ(360)&ループの次に実施



あらかじめどんな課目が後ろから進入してくるのかを知っていれば、撮影時も心強いですし、あらかじめその方向にレンズを構えてちょっとしたツウな振る舞いができるかも!?
(中級者向け)課目に関するうんちく
ブルーインパルスの課目についてはその他にもいろいろなウンチクがあり、知っていると展示飛行をより楽しむ事ができます。
ブルーインパルスの課目に関するウンチクを知りたい方はこちらをクリック
- 2番機の課目「ローアングル・キューバン」が宙返りを行わない「ローアングル・テイクオフ」になることがある
- 「インバーテッド&コンティニュアス・ロール」で5番機が宙返りせずに左旋回したら4区分
- 8番目の課目「サンライズ」には、宙返りを行うもの(1、2区分)と、宙返りしない「レベル·サンライズ」(3区分)がある。宙返りせずに5方向に開いた後で上昇しなければ「レベル·オープナー」(4区分)
- 15番目の課目「4シップ・インバート」で、1番機以外が背面なら「3シップ・インバート」、1、4番機が背面なら「ダブル・ファーベル」
- 16番目の課目「キューピッド」が、縦のハートなら「バーティカル·キューピッド」(1・2区分)、斜めのハートなら「スラント・キューピッド」(3区分)、矢が貫かない水平のハートなら「レベル・キュービッド」(4区分)



ここに挙げた以外にも、あまり一般には公開されていないウンチクなどに気づくことができるとより楽しさが深まりますね
編隊連携機動飛行(第5区分)や航過飛行とは?
航空祭などで雲の高度が低い場合や、滑走路のある基地以外の場所にて飛行を行う場合は編隊連携機動飛行(第5区分)とよばれる区分や航過飛行を行います。
アクロバット飛行をしない機動飛行を編隊で行うこと



基地以外の場所での飛行は編隊連携機動飛行に限られ、安全上の理由から垂直上昇や宙返り、垂直のハートなどが描かれることはありません
編隊を組んだまま飛行すること。基地祭以外のイベントで、特定の地点をスモークを出しながら通過していくパターン。急旋回などは実施しない。ブルーインパルスの場合、デルタ隊形と呼ばれる編隊の形で実施されることがほとんど。なお、戦闘機などが2機の編隊でイベント会場上空を通過する場合もこれに該当する。



航空祭などで編隊連携機動飛行の実施も難しい気象状態の場合は航過飛行が実施されます
ブルーインパルスの飛行技についてのまとめ
- ブルーインパルスの飛行技は課目と呼ばれる
- 課目の内容は離陸後行われる5番機の天候調査により【第1~4までの飛行区分】として決定される
- 飛行区分の内容を知っていると次に行われる飛行技があらかじめ予測できる
- 激しい機動や垂直な飛行を含めたアクロバット飛行【第1~4区分】が行われるのは航空祭のみ
- 航空祭以外のイベントでは第5区分(編隊連携機動飛行)とよばれる水平系の課目が実施される
- 飛行区分は会場のアナウンスなどでは発表されないが、実施される内容で察することができる
- 航空無線を聞いていると、パイロット間による無線のやり取りから実施される区分内容について知ることができる
- 各課目の順番はあらかじめ決められているが、途中の天候状況などで変更される場合がある
- 一般にはあまり知られていないウンチクが多数存在する(いろいろわかるとより楽しい!)
ブルーインパルスの飛行技に関する最新の情報にもとづいた解説は以上となります。
今後も新たな情報やウンチクについて記事を更新していきます。
ここまでお読みいただきありがとうございました






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